2008年6月22日日曜日

藤沢周平 「蝉しぐれ」

藤沢周平の「蝉しぐれ」を読みました。この作品は何年か前に映画化されたそうですが、さすがに藤沢文学の金字塔と言われるだけあって、密度の濃い傑作でした。
手にしてから一気に読み終えてしまえるストーリー展開のおもしろさと深みが味わえました。

10代のころからアメリカ文学にのめり込みましたが、初めてアーウィンショーなどを読んだ時に、「こんなに洒脱で深みのある小説は日本文学ではないよなあ」などと感じたものですが、どうしてどうして、日本ならではの繊細に奥ゆかしい機微に溢れた文体に感心しました。

忘れかけている日本人のメンタリティの素晴らしさを表現した作者の藤沢周平は昭和初期生まれの巨匠ですが、この世代の感性を継承出来る作家がもっともっと出て来て欲しいと願います。登場する男女は「日本的な礼儀」に重きを置く世界に生きていて、現代の価値観とは一線を画しています。しかし、上質のラブストーリーを描くには実はこれほどの物語の厚みとストーリー展開、的確な描写の分量と心理描写、表現力の高さが必要なのだとあらためて実感させてもらえる一冊です。
超一流の技というのは気持ちの良いものです。 まさにプロフェッショナルな作家の作品からしか味わえない読後感でした。

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